大判例

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東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)6号 判決

一 原告主張の請求の原因一ないし三の各事実(特許庁における手続の経緯、本願各発明の要旨及び審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決取消事由の存否について検討する。

1 まず、原告は、本願発明(1)に関して、繊維の引き入れられる方向と引き出される方向とが或る角度をなすのが、本願発明(1)においては導渠ないしパイプの途中に開口されている分離口であるのに対し、引用例記載のものではパイプ(輸送管)入口付近の自由空間であり、この点は構成上の本質的な差異というべきものである旨主張する。

しかしながら、前記争いのない本願発明(1)の要旨および成立に争いのない甲第二、三号証によれば、本願発明(1)は、前記要旨にみられる構成の紡糸方法にかかるものであるが、本願発明(1)における分離口が導渠ないしパイプの途中に開口しているとの事項については、明細書の特許請求の範囲には記載されておらず、発明の詳細な説明および添付図面中に実施例(特に第5、6、12図に示す実施例)として記載されてはいるものの、右事項を本願発明(1)の要旨と解さなければならない記載はないから、本願発明(1)に右事項のような限定があることを前提として、それが引用例記載のものと構成上相違するとする原告の右主張は採用できない。

2 次に、原告は、作用効果上も、引用例記載のものにおいては、自由空間中に送り出された繊維等が空気抵抗により減速され、制御不能の状態になるのに対し、本願発明(1)の方法では、制御不能の繊維浮動状態を惹起することなく、繊維のロスをもたらさずに確実な異物の分離除去ができるという差異がある旨主張する。

しかし、成立に争いのない甲第四号証の記載、特にその第3、4図およびそれに関する説明記載によれば、引用例には、紡糸すべき繊維が供給およびほどき装置を経てほぐされた繊維として空気流により紡糸体内に導かれる空気紡績装置で、繊維を紡糸体へ導く輸送管3の入口のある空間に不純物受けを配設したもので、右輸送管3を繊維の送出線(別紙図面(二)の第1、2図において符号2が付されている部分)から輸送管の半径の一倍以上二倍以下の距離だけ距てた位置に置くという構成を特徴とするものが記載されており、その装置は、右の特徴とする構成により、輸送管の吸引に因る風速と流出繊維の初速の比および繊維又は不純物等の固体の自由落下時に重力と空気抵抗とが釣り合う終速度等の値と相互の関係とも相まつて、繊維を輸送管3に吸引させ、不純物を不純物受けに収容させることができるものであることが認められ、右事実によれば、引用例記載のものにおいても、繊維と不純物との分離のために、輸送管3の位置および前記風速と初速の比等を制御することができるものであるから、その分離部を形成する空間も、全くの自由空間ではなく、制御された空間ということができる。

一方、前記甲第二号証の記載、特にその第1、2、3、4図にみられるローラ2とハウジング11との間隙に比し相当広い開口6の表示、および甲第三号証、特にその「ローラ2の回転によつて糸とこれらの糸との間に存在する汚染物は開口6に達する」との記載(一〇頁二ないし四行)によれば、本願発明(1)においても、分離口より前の部分においては、これが導渠ないしパイプで構成されていても、閉鎖された空間であることは必ずしも要求されず、この部分における繊維等の移動も常に紡糸室の負圧に因る空気の流れによるものとはいえないことが認められるのであつて、本願発明(1)の構成により分離口より前の部分において繊維等の流れの制御が特に良好であることを認めるに足りる証拠はない。

したがつて、本願発明(1)と引用例記載のものとの間に原告主張のような作用効果の相違があるとすることはできない。

3 また、原告は、本願発明(1)と引用例記載のものとでは異物(不純物)を分離するために利用する要素が異なると主張するが、前記甲第二ないし第四号証によれば、両者とも繊維と異物(不純物)との質量および比重の差並びにこれらに働く慣性ないし遠心力および空気抵抗の差を利用して分離をするものであることが明らかであるから、原告の右主張は理由がない。

4 そうすると、審決認定の周知技術は原告の明らかに争わないところであるから、本願発明(1)が、その特許出願前に頒布された引用例の記載と周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものとして、特許を受けることができないとした審決の判断に誤りはないといわなければならない。

5 以上のとおり、本願発明(1)は特許を受けることができないから、特許法三八条ただし書による本願各発明の特許出願は、その余の事項について判断するまでもなく、全体として特許出願を拒絶されるべきものであり、したがつて、これと同旨の審決に違法の点はないといわなければならない。

三 よつて、審決の取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註〕 本願発明(1)の要旨は左のとおりである。

(1) 紡糸すべきスライバが供給およびほどき装置を経て単糸として紡糸室へ導かれるスライバ紡糸方法にして糸が導入個所と紡糸室との間で分離口を通るので糸の取入れ方向と引出し方向とが或る角度をなすことを特徴とするもの

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